メ-ルニュースのご紹介の第3回目は、平成28年6月6日の非公開裁決「先物取引に係る損失の繰越控除/連続して確定申告書を提出している場合」です。
この裁決に登場する先物取引は、FX取引のことですが、FX取引をしている個人の方の確定申告をされている税理士さんは、少ないと思います。それにもかかわらず、私がこの裁決をメールニュースに書いたのは、題名にも書いた通り、「連続して確定申告書を提出している場合」について判断された事例で、この判断が、上場株式等の譲渡損失の繰越控除にも当てはまるのではないかと思ったからです。(上場株式等の譲渡損失についての裁決もこの頁の下の方でご紹介しています。)

先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の規定では、損失の金額が生じた年分の所得税につき当該先物取引の差金等決済に係る損失の金額の計算に関する明細書等の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であつて、確定申告書に控除を受ける金額の計算に関する明細書等の添付がある場合に限り、適用するとされています(措法41条の15第3項)。
そして、この「連続して確定申告書を提出している場合」というのは、この裁決で言えば、所得税の確定申告書が平成23年分、平成24年分、平成25年分という順序で提出された場合をいうので、平成23年分、平成25年分、平成24年分の順番で提出された場合は、「連続して確定申告書を提出している場合」に該当しないとされました。
なお、この裁決は、平成29年9月29日長野地裁、平成30年3月8日東京高裁でも争われていて、いずれも棄却されています。(東京高裁で確定したのか、それとも上告申立てがされたのかは不明)長野地裁判決に繰越損失の金額などが記載されているので、ここでは、長野地裁、東京高裁判決の判断をご紹介しますが、東京高裁判決の「その後において連続して確定申告書を提出『している』場合」についての解釈については省略します。

【前提事実等】(繰越損失額については、一部計算が合っていないようです。)

・A(原告、控訴人)は、平成24年3月12日、松本税務署長に対し、平成23年分の所得税について、先物取引に係る雑所得の損失を1502万6659円(本件繰越損失額)、翌年以後に繰り越される損失の金額を2227万2064円と記載した確定申告書及び添付書類を提出した。
・Aは、平成26年3月10日、松本税務署長に対し、平成25年分の所得税等について、先物取引に係る雑所得の金額を484万9722円、前年分までに引ききれなかった先物取引の差金等決済に係る所得の損失の額を1502万6659円(本件繰越損失額)、本年分の先物取引に係る所得から差し引く損失額を484万9722円、翌年以後に繰り越される損失の金額を1017万6937円と記載した確定申告書及び添付書類を提出した。
・Aは、平成25年分確定申告書等の調査を担当した松本税務署職員から、平成25年分確定申告書等の提出時において、平成24年分の所得税の確定申告書が提出されておらず、連続して確定申告書が提出されていないため、平成25年分の所得税等について、平成25年分の先物取引に係る雑所得の金額から本件繰越損失額を控除することはできないとの指摘を受けた。そこで、Aは、平成26年12月17日、先物取引に係る雑所得の金額を484万9722円及び納める税金を74万2600円と記載した平成25年分の所得税の修正申告書を提出した。
・Aは、平成27年4月20日、松本税務署長に対し、平成24年分の所得税について、先物取引に係る雑所得の金額を184万2585円、本年分の先物取引に係る所得から差し引く損失額を184万2585円、翌年以後に繰り越される先物取引に係る損失の金額を1502万6659円(本件繰越損失額)及び納める税金を零円と記載した確定申告書及び添付書類を提出し、これと同時に、上記平成24年分期限後申告書等の提出により、平成23年分から連続して確定申告書が提出されたこととなるため、平成25年分の所得税等について、平成25年分の先物取引に係る雑所得の金額から本件繰越損失額を控除できるとして、先物取引に係る雑所得の金額を484万9722円、同雑所得について課税される所得金額を零円及び納める税金を零円とすべき旨の更正の請求書を提出した。
その後、松本税務署長が、本件更正の請求について、更正をすべき理由があるとは認められないとして、本件通知処分をしたため、Aがその取消しを求めた。

【裁判所の判断】
本件特例の適用を受けるためには、本件特例の適用を受ける年分の確定申告書を提出するまでに、確定申告書の連年申告を含め、本件特例の手続的要件を充足し、当該年分の先物取引に係る雑所得等の金額から控除されるべき、その年の前年以前3年内の各年において生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額が確定している必要があると解するのが相当である。施行令26条の26第4項2号及び5号が、本件特例の適用を受ける年分の確定申告書に、その年の前年以前3年内の各年において生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額及び本件特例により翌年以後において先物取引の差金等決済に係る雑所得等の金額の計算上控除することができる先物取引の差金等決済に係る損失の金額の記載を義務付けているのも、かかる解釈を前提として規定されたものと解される。
これを本件についてみると、Aが平成26年3月10日に本件特例の適用を受けようとする平成25年分確定申告書等を提出した時点において、平成23年分確定申告書等は提出されていたものの、平成24年分の確定申告書等は提出されていなかったのであるから、「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には該当しない。
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以上のとおり、この事例は、平成25年分の申告書を提出する前に、平成24年分の申告書を提出していなかったということで、損失の繰越控除の適用ができなくなってしまったというものです。このように、税務申告は、まだまだ、手続命というところがありますね。
このメールニュースは、平成29年頃書いたものですが、このメールニュースが発行された翌週ぐらいに、上場株式等の譲渡損失の繰越控除についても「連続して確定申告書を提出している場合」について判断された裁決がTAINSに収録されました。
長くなりますので、該当の部分だけご紹介します。
「一定の上場株式等に係る譲渡損失の金額につき、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除できることとする措置法第37条の12の2第6項(本件特例)の手続要件については、措置法第37条の12の2第8項((※筆者注:2020年1月末現在は7項)に「上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき‥確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であつて」と規定されているところ、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出と本件特例の適用を受ける年分の確定申告書の提出との先後関係については、同項が「その後において」と規定していることからすれば、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出が先であることは、文理上明らかである。
加えて、措置法第37条の12の2第6項が「上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)」と規定し、本件特例の適用を受ける年分において控除する上場株式等に係る譲渡損失の金額から、当該年分の前の年分において既に控除された当該譲渡損失の金額を除いていること、また、措置法施行令第25条の11の2第8項において、控除する上場株式等に係る譲渡損失の金額が前年以前3年内の2以上の年に生じたものである場合には、これらの年のうち最も古い年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額から順次控除することなどを規定していることからすれば、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出後に、順次その後の年分の確定申告書が提出され、当該譲渡損失の金額も順次控除することを予定しているといえる」(平成29年6月14日非公開裁決)

上場株式等の譲渡損失の裁決は、平成28年12月2日の公表裁決もありますが、そもそも当初申告要件も満たしていないものが多く、納税者の方は、やはり、最初に申告した確定申告書で、上場株式等の損失を申告しなければ、その申告は申告不要を選択したものとみなされるという当初申告要件をご存知ないんだなーと思いました。

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