ここでは、法人税等の支払に関する資金繰りについてご説明しています。前半は、収入、経費ともに現金で入出金がある場合で、利益が200万円、100万円、0円のときの税金の金額と会社に残る現金をシミュレーションしています。後半は、減価償却資産を購入した場合の税金の金額と会社に残る現金について説明しています。
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私は、勤務時代を含めると18年ほどこのお仕事をしていますが、この間にご相談を受けた中には、とにかく、税金を払いたくないという人が少なからずいらっしゃいました。
特に、会社の代表取締役に、経営する会社の法人税を支払うのが嫌だという方が多いようです。
しかし、法人の場合、法人税を支払わないと会社にお金を貯めることはできません。
ただ、いくらご説明してもご理解いただけない方が多いです。
そこで、①会社の売上が800万円、経費が600万円、利益が200万円で法人税を支払う場合と、②この会社が100万円の経費を余分に(?)支出し、利益が100万円になった場合、③この会社が200万円の経費を余分に支出し、利益が0円となった場合の3パターンに分けて、企業にどのくらいのお金が貯まるかをシミュレーションしたいと思います。(この場合の利益は全部現金で手元にあるものとします。)

なお、会社は、資本金1000万円未満の普通法人としますので、法人税の税率は、利益(課税所得金額)が800万円以下だと15%、地方法人税は法人税の額の4.4%、事業税の税率は利益が400万円以下だと3.4%、地方法人特別税は事業税の額の43.2%、法人都民税は法人税の額の12.9%です(令和2年4月現在、令和元年9月30日までに開始する事業年度の場合)。
上記の条件でそれぞれの税金を計算したのが下の表です。(百円未満切捨て等の端数処理後)

①の利益が200万円の場合だと、法人税、事業税、法人都民税等を合わせると全部で51万9200円となりますので、この場合、手元にある200万円から上記の法人税等を支払っても148万800円の現金が残ります。
次に、②の場合は法人税等の金額は29万4500円ですので、手元に残る現金は、100万円から上記の法人税等を支払った残額の70万5500円となります。
③の場合は、法人税等として支払うのは、均等割額の7万円だけになりますが、手元に残っている現金は0円ですので、代表取締役が均等割額の7万円を会社に貸し付けることになります。

代表取締役の立場に立てば、利益が200万円あった場合でも、その中から51万9200円の法人税等を支払うのは、かなりきついことだと思います。
ですが、上記のように、余分に100万円の支出をして法人税等の額を29万4500円とした場合、手元に残る現金は70万5500円となってしまいます。
つまり、100万円の余分の支出をした場合は、税金は22万4700円減少するけれど、77万5300円の現金も減少してしまうということになるのです。
そして、これが何年分にもなると非常に大きな差が出てきますが、それをまとめたのが次の表です。

毎期残る現金がそのまま残るとすると、会社に残る現金は、それぞれ上記の表のとおりとなります。
①の場合は、5年もすると740万4千円も貯まるので、財務状況もしっかりしてきます。
人件費や家賃などの当面の運転資金も確保できているので、このような会社だと金融機関も安心して融資をしてくれるかもしれませんし、もう少し貯めて、会社を新たな展開に導くような投資をすることもできるかもしれません。
②の場合もやや少ないけれど、会社にお金は貯まっています。ただ、①の場合に比べると若干貧弱な気がしますが、これは、当面の運転資金しかこの会社に貯まっていないからです。
そして、このような財務状況だと利益率が悪いのかなという感じがしますが、もし、役員給与や交際費等の支出が多い場合は、代表取締役の無駄遣いが多いという印象を受けます。
ただ、本当に利益率が悪いとしたら、支店を増やす等の薄利多売で利益率の悪さをカバーするか、利益率の悪さの原因を追究し、合理化を進めるべきで、いずれにしても改革が必要だと思います。
③の場合は、会社にお金が全く残っておらず、更に代表取締役からの借入金が35万円という状態です。会社の運転資金が全く貯まっていない状態ですので、代表取締役に個人的な資産があれば、会社の運営はできると思いますが、いずれ運転資金が回らなくなるかもしれません。
このような会社は利益率が悪い又は売上が少ないという原因以外は、やはり、代表取締役が故意に会社のお金を使っていることが考えられますので、そもそも、代表取締役に、会社を大きくしていこうという気がないのだろうという気がします。(代表取締役からの借入金は、いずれ代表取締役の相続財産になります。)
このように、専門家は、会社の財務状況を見ただけで、代表取締役の考え方まである程度推測できるのですが、話がそれてしまうので戻します。

上記で見てきたとおり、会社に一番お金が貯まったのは、余分な支出をしないで法人税等を支払った場合です。やはり、会社には、2-3ヶ月分の人件費や家賃などの運転資金や将来の長期的な投資に備えるための資金を貯めておくべきですので、きちんと法人税等を支払って会社にお金を貯めることをお勧めします。

また、上記の計算は、簡便的に売上も全部、現金で入金があって、費用も全部現金で支出した場合を想定していますが、実際は、30万円以上の固定資産を購入すると、その固定資産は、減価償却の対象となるので、30万円の現金を支出しても、経費となるのは5万円とか、6万円となることもあります。
①で、経費の中に30万円の固定資産の減価償却費5万円が含まれている場合、手元に残る現金は170万円(200万円―30万円)ですが、税金の金額は同じなので、手元現金は118万800円となります。
②の場合だと、手元に残る現金は70万円(100万円―30万円)ですが、税金の金額は同じなので、手元現金は40万5500円となってしまいます。
このように、減価償却資産の購入で現金が少なくなっても、その期の経費には耐用年数に応じた減価償却費しか計上できません。ですので、店舗を構えた小売業、飲食店など、初期の設備投資の大きい会社は資金繰りをシビアに考える必要があります。

そして、更にいうと、②③のように、余分に100万円又は200万円を支出した場合、その余分に支出した金額は、果たして法人税法上の損金の額に算入できるものなのでしょうか?
例えば、消耗品や事務用品を多めに買った場合、期末に未使用のものは貯蔵品に計上しなければいけませんので、損金にはできません。
また、飲食代は、福利厚生費、会議費、交際費等に該当するものしか、損金の額に算入できません(交際費等については限度額の規定あり)。
代表取締役が1人で飲食又は友人と飲食、あるいは家族で飲食した等の業務に関連性のない支出である場合は、損金の額に算入できませんし、もし、損金の額に算入させた場合、業務に関連性のない支出を関連性のある費用だと偽って損金の額に算入させたとして、重加算税が課される場合もあります。
なお、代表取締役などの役員給与についても、同業種類似規模の法人に比べて過大であると判断された場合は、過大な部分の金額は損金の額に算入できません。(役員給与の場合、代表取締役の役員給与に課される所得税よりも法人税の税率の方が低い場合もあります!)
このように節税のためということで、むやみに費用を作るのは大変危険なことでもありますし、法人にお金を残すためには、やはり無駄な支出は避けなければいけません。

私は、代表取締役の方に、会社のお財布もご自身の家庭の家計と同じように考えてくださいとお伝えしています。
ご家庭の家計と同じように、無駄遣いをすれば、それだけ、お財布からお金が無くなるということをわかっていただければ、法人税を払いたくないからということだけで無駄な出費をすることも避けられるのではないかと思います。
①のように、毎年の利益からある程度のお金を貯めていくことができれば、次のチャンスに備えることができ、良い循環のループを作ることができると思いますが、どちらの道を選ぶかは、やはり、代表取締役の方の性格にかかっています。
目先の51万9200円の法人税の支払にとらわれないで、現金が740万4000円貯まるという5年後の財務状況の方に目を向けていただきたいと思います。