ここでは、遺産分割協議による宅地の分割が不合理分割と判断された事例をご紹介しています。
評価単位の基本的な知識については、下記「土地の評価-路線価による計算方法」の頁の「3 土地の評価単位の基本」に書いていますので、併せてご覧ください。

土地の評価ー路線価による計算方法




はじめに
遺産分割協議による宅地の分割が著しく不合理である場合のその分割を不合理分割といいます。
不合理分割については、評価通達7-2(1)注書きに取扱いが書かれています。

この通達の、「分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができない」という状況には、分割後の宅地が、建物を建てることのできない無道路地となる場合などがあります。国税庁ホームページでは、次のような事例が紹介されています。

上記の(1)については現実の利用状況を無視した分割であり、(2)は無道路地を、(3)は無道路地及び不整形地を、(4)は不整形地を、(5)は奥行短小な土地と無道路地を、(6)は接道義務を満たさないような間口が狭小な土地を創出する分割です。宅地が不合理分割と判断される場合は、分割前の画地1画地の宅地として評価を行うこととなります。ここでは、実際の事例で、不合理分割と判断された事例と不合理分割とならないと判断された事例をご紹介いたします。

【目 次】
1.分割後の宅地が、無道路地及び奥行距離が長大な帯状地となるため、不合理分割であるとされた事例
2.分割後の宅地が無道路地や奥行きが長大な土地となっても不合理分割とならないとされた事例
3.コメント

1.分割後の宅地が、無道路地及び奥行距離が長大な帯状地となるため、不合理分割であるとされた事例
平成22年7月22日裁決(公表裁決) TAINSコード:J80-4-08
(1)概要
本件被相続人(平成19年12月●日死亡)は、A土地、B土地、C1土地、C2土地(C1土地と本件C2土地を併せて「本件C土地」と言う。)、D土地(これらを併せて「本件各土地」という。)を所有し、自ら畑として耕作していた。
本件相続開始の直前において、本件各土地のうち、C1土地及びD土地の一部は、被相続人及び請求人らの共有であり、その余の各土地は、被相続人の単独所有であった。
本件各土地は、本件相続開始日現在、市街化区域内に所在する農地で、評価基本通達40-3の(2)に定める生産緑地であり、路線価方式により評価する地域に所在していた。
本件各土地は、平成20年10月18日の遺産分割により、A土地は請求人Eの単独所有地に、C2土地は請求人Fの単独所有地に、B土地、C1土地及びD土地は、それぞれ異なる共有持分割合により、請求人E、Fの共有地になった。
請求人らは、法定申告期限までに申告した後、平成20年11月5日、本件各土地を1つの評価単位として、評価基本通達24-4(平成29年改正前の広大地の評価)を適用し評価すべきであったとして、本件各申告に係る本件各更正の請求をした。これに対し、原処分庁は、B土地は不合理分割に該当するとして、A土地と一体として評価し、本件各土地を、①A土地及びB土地(以下「本件AB土地」)、②C土地並びに③D土地の3つの評価単位として、評価単位ごとに評価基本通達24-4を適用して評価額を算定し、本件各更正の請求の一部を認める各更正処分をした。
(略図)

(2)国税不服審判所の判断
本件遺産分割により、A土地は請求人Eの単独所有地に、C2土地は請求人Fの単独所有地に、B土地、C1土地及びD土地は、それぞれ異なる共有持分割合により、請求人らの共有地になったことが認められる。
このうち、B土地、C1土地及びD土地の共有持分割合がそれぞれ異なるのは、C1土地及びD土地の一部の土地について、請求人らが本件相続開始前から持分を有していたことに加え、請求人らの主張を前提とすれば、D土地については、売却が予定されていたのに対し、C1土地は、請求人らの手元に残した上で、将来、B土地の共有持分とC1土地の共有持分とを交換することが予定されていたためであるというのであるから、これらの事情を総合的に考慮すれば、本件各土地の分割後の画地は、①A土地、②B土地、③C1土地、④C2土地及び⑤D土地の5つであるというべきである。
しかしながら、このうち、B土地は、三方をA土地に、一方を他人の所有地に接しており、直接道路に接していない土地であり、当該土地単独で評価した場合には、実態に即した評価がなされないから、その分割は、評価基本通達7-2(1)注書にいう不合理分割に該当するというべきであり、その評価に当たっては、その分割前の画地を評価単位とすべきである。
そうすると、B土地は、分割前においては、A土地と一体として本件被相続人が単独で所有していた土地であるから、分割前の画地は、A土地と併せた本件AB土地となる。
また、C1土地は、間口距離(3m)に比べ奥行距離(35m)が長大な帯状地であり、当該土地単独で評価した場合には、実態に即した評価がなされないから、その分割は、B土地の分割と同様、不合理分割に該当し、その評価に当たっては分割前の画地により評価単位を判定することとなる。
そうすると、C1土地は、本件相続開始後にD土地の一部から分筆された土地であるから、分割前の画地は、D土地と併せた本件C1D土地となる。
したがって、本件各土地の評価単位は、①本件AB土地、②本件C2土地及び③本件C1D土地の3つとなる。

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2.分割後の宅地が無道路地や奥行きが長大な土地となっても不合理分割とならないとされた事例
(1)奥行きの長い土地について、隣接地を使用貸借により利用していることから、著しく不合理な分割が行われたとまでいうことはできないとされた事例                       
平成28年12月20日裁決(公表裁決) TAINSコード:J105-3-08
① 概要
請求人ら4名は、平成23年6月○日に死亡した本件被相続人の共同相続人であり、いずれも本件被相続人の養子である。
請求人Kは請求人Hの妻であり、請求人L及び請求人Mは請求人H及び請求人Kの子である。
甲土地(A区画とb1区画)は被相続人が単独で所有していた所有権を相続により、K、L、Mが共有により取得した。
甲土地のA区画は、テニスコートの敷地である。
B区画とE区画は、相続人Hが所有する家屋(本件居宅)の敷地であり、被相続人がH、K、L、Mとともに居住していた。
b1区画は、本件居宅の敷地の一部として利用されている。
乙土地(B区画とC区画)は、被相続人とHが共有で所有していた土地であり、本件相続により、被相続人の持分は全部Hが取得したため、Hの単独所有となった。
そのほかの土地についての詳細は省略。
この裁決では、上記を前提に、b1区画が間口が狭く、奥行きの長い著しく狭あいな宅地で、単独での利用が困難な土地であるとして、不合理分割に当るか否かが争点の一つとなった。

② 国税不服審判所の判断
甲土地のほとんどの部分はテニスクラブの敷地として利用されているA区画(雑種地)が占めているものの、本件居宅の敷地の一部として利用されているb1区画(宅地)も含まれていることから、仮に地目に基づき甲土地の評価単位を判定すると、地目の異なるb1区画とA区画は別々に評価されることとなる。その場合、b1区画は、間口が狭く、奥行きの長い著しく狭あいな宅地となり、単独での利用が困難な土地となるので、本件遺産分割は、評価通達7-2(1)の注書に定める不合理分割に当たるのではないかという疑問が生じる。
しかしながら、本件の場合、①A区画は地目が雑種地と判定されるもののA区画の周辺は住宅地であり、A区画は宅地に比準して評価することになること、②被相続人は、甲土地(A区画及びb1区画)の全部を所有し、請求人Hとともに本件居宅に居住していたことから、甲土地の一部であるb1区画について本件居宅の敷地としての利用を許容していたと認められ、本件遺産分割後もb1区画の利用について請求人Hを除く他の請求人らがその利用を黙認している状況にあり、さらに請求人Hと被相続人及び他の請求人らとの間に地代の収受等が特にないことなど本件遺産分割前後における状況も踏まえて判断すると、請求人Hがb1区画を居宅の敷地として利用している状況は、使用貸借に基づく一時利用が継続しているとみることができる。
このことからすれば、本件遺産分割において、b1区画を含む甲土地を請求人H以外の請求人らが取得する旨合意したことをもって、評価通達7-2(1)注書に定める著しく不合理な分割が行われたとまでいうことはできない。
使用貸借に基づく権利は、貸主、借主間の人的なつながりのみを基盤とするもので借主の権利が極めて弱いことから、所有する宅地の一部を自ら使用し、他の部分を使用貸借により貸し付けている場合には、その全体を1画地の宅地として評価するのが相当であり、本件では本件相続開始後も使用貸借の状況が継続している状況にあるとみられることからすると、地目は異なるものの、請求人Hが使用貸借に基づき使用しているb1区画は、甲土地の一部に含めて本件甲土地全体を一団の雑種地として評価するのが相当である。 

(2)遺産分割により無道路地となるが、将来においても有効な土地利用が図られず通常の用途に供することができない不合理な分割とは認められないとされた事例
平成19年5月16日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-234
(ⅰ) 概要
この事例は、下図の土地1について、遺産分割協議により、使用貸借地部分を請求人甲が取得し、その余の部分は請求人乙が取得したことから、請求人甲が取得した使用貸借部分が無道路地となるため、土地1の評価単位が争点となった事例です。
土地1は、相続開始時点において、①被相続人所有の本件建物の敷地、②被相続人所有の廃屋の敷地及び③請求人甲とその夫(請求人甲ら)の共有の本件居宅の敷地と④更地部分から成っていた。なお、本件居宅の敷地は、被相続人から請求人らに対し、使用貸借により貸し付けられていた(本件使用貸借地部分)。
本件居宅の敷地である使用貸借地部分が面する町道は、幅員が1m程度しかないため、建築基準法第42条第2項に規定する道路に指定されておらず、本件居宅の建築確認の許可は、本件居宅を建築するに当たり、その敷地となる周囲は、空閑地があり、防災上、安全上等に支障がないことなどから、建築基準法第43条第1項ただし書きの規定により建築主事の判断で許可された。
被相続人及び請求人甲らは、平成6年に本件居宅の建築確認の許可を受けるに当たり、本件居宅が面している町道の拡幅に必要な被相続人所有の土地と■■■の一部の交換に応じる旨の連署による誓約書を同年7月に町長あてに提出した。
さらに、平成6年9月、町道を拡幅する場合に4m分の幅員を確保できるように協力する旨の連署による誓約書を追加して町長に提出した。
請求人甲らは、相続開始時点において、本件廃屋の敷地部分を国道に通じる通路として利用していた。

(ⅱ) 請求人の主張 
請求人らは、現況の土地利用の状態において、①本件建物の敷地、②被相続人所有の廃屋の敷地、③請求人とその夫所有の居宅及び④未利用の更地部分に区分される。特に、本件更地部分については、造成を要する土地である状況からして、宅地部分 (現に建物が存在している部分)と別用途 であり、別区画として評価を行うべきであると主張した。これに対し、原処分庁は、①から④の全てが同一の利用単位 (自用地)に当たり、 1画地として評価することになる。なお、④を単独で評価することは道路に面していない無道路地となり不合理であると主張した。
(略図)

(ⅲ) 国税不服審判所の判断
本件土地の分割(筆者注:遺産分割協議による分割により、幅員が1mほどの町道に面する本件居宅の敷地部分を請求人甲が取得し、その余の部分を請求人乙が取得していること)は、①現実の利用状況を無視した分割とは認められないこと、②本件居宅の建築に当たり、町道を拡幅する場合には協力する旨の被相続人と請求人甲らの連署による誓約書を町長あてに提出していること及び請求人甲らは、廃屋の敷地部分を国道に通じる通路として利用していたことなどからすれば、本件土地の分割は、将来においても有効な土地利用が図られず通常の用途に供することができない不合理な分割とは認められないこと、③請求人乙が取得した土地1の部分は、連たんする一団の宅地であるとともに、自由な使用収益を制約する他者の権利は存在しないところ、その規模、形状、位置関係等からして、これを請求人ら主張のとおり4画地に区分して評価することとすると、本件更地部分について無道路地としての補正を行わなければならなくなるなど、実態に即した評価ができなくなると認めるのが相当であること及び④相続等により取得した土地は、原則として取得者ごとにその取得した部分ごとに評価通達7-2の(1)に定める評価単位の判定を行うことが相当であることからすると、請求人ら及び原処分庁の主張はいずれも採用できず、土地1については、本件使用貸借地部分とその余の請求人乙が取得した部分の土地の2画地に区分して評価するのが相当であると認められる。

3.コメント
2の裁決にあるように、遺産分割協議で分割した土地が無道路地となったとしても、その周囲の土地を親族から使用貸借により使用できる場合は、不合理分割とならない場合があります。
ただ、その場合は、相続税の申告のときに、不合理分割とならない理由を説明しておいた方がいいと思います。
きちんと説明をしないと、「不合理分割がある」ということで、税務調査の対象とされる恐れがあります。