ここでは、私道の評価が争点となった事例のうち、敷地と合わせて評価すると判断された事例をご紹介します。
はじめに
私道の評価は、財産評価基本通達24に下記のように定められています。

私道は、不特定多数の者が利用する私道は評価しなくてもいいのですが、特定の者のみが利用する私道は、路線価方式等により評価した価額の30%に相当する価額で評価します。
しかし、下記の図のAの部分のように宅地Bへの通路として専用利用されている路地状敷地については、私道として評価することができず、隣接する宅地Bとともに、1画地の宅地として評価することとされています。


〔国税庁ホームページ:質疑応答事例「私道の用に供されている宅地の評価」〕

上記のような路地状敷地は通路と考えられるので、宅地と合わせて評価することに疑問を持たれる方は少ないと思いますが、判決や裁決では、宅地と合わせて評価するか否かが争点となった事例がたくさんありますので、宅地と合わせて評価する場合の根拠について少しご説明します。

この「私道」ではなく、「宅地」として評価する場合というのは、私道の地目が「宅地」と判断される場合です。
地目の判定は、財産評価基本通達7の注書きにあるように、不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付民二第456号法務省民事局長通達)第68条及び第69条に準じて行うこととされていますが、宅地の地目の判定については準則67条に「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地」と書かれています。そこで、私道が、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地」に該当する場合は、宅地と合わせて評価することになります。
そして、この「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地」の解釈について、平成17年5月31日裁決では、次のように述べられています。
「『維持若しくは効用を果たすために必要な土地』とは、建物の風致又は風水防に要する樹木の生育地及び建物に付随する庭園又は通路等のように、それ自体単独では効用を果たせず、建物の敷地に接続し、建物若しくはその敷地に便益を与え、又はその効用に必要な土地をいうものと解される。また、『維持若しくは効用を果たすために必要な土地』に当たるか否かは、その土地の利用目的及び土地全体の現況に応じて判断することが相当であると解される。」
 つまり、宅地に隣接する私道が、①「それ自体単独では効用を果たせないもの」、②「建物の敷地に接続しているもの」、③「建物若しくはその敷地に便益を与え、又はその効用に必要とされるもの」に該当する場合は宅地に含まれることとなります。
 上記のような路地状敷地は、「通路」ですし、この3つの要件を全て満たしているので、当然、宅地に含まれることになりますが、敷地と合わせて評価すると判断された事例には、上記のような路地状敷地だけでなく、私道としての外観があると思われるような私道もありますので、ここでご紹介します。

【目 次】
1.複数の者に利用されている私道
(1)近隣住民の犬の散歩に利用されている私道
(2)老人クラブの集会所に付随する用途に供されている土地
2.一部がみなし位置指定道路に指定されている土地
3.接道義務を満たすために使用借権の設定がされた土地
4.マンションの敷地内の私道
(1)私道の用に供されているとして30%の価額で評価すると判断された事例
(2)私道ではなく、敷地の一部に含めて評価すると判断された事例
5.歩道状空地について判断された事例



1.複数の者に利用されている私道
(1)近隣住民の犬の散歩に利用されている私道
平成20年3月13日神戸地裁 TAINSコード:Z258-10919(却下、棄却)(確定)※位置関係が不明なので、わかりにくいのですが、このような土地でも私道に該当しないということのご紹介です。
(ⅰ) 概要
乙土地は、一棟の貸家の敷地として利用されている土地で、原告らは、乙土地の一部64.8平方メートル(本件敷地部分)は、行き止まりで、原告らのみではなく、借家人、郵便配達人、近隣住民の犬の散歩にまで利用されていることから、評価通達24に定める私道にあたる(借家建物建付地の30パーセントと評価すべきものである)旨主張していました。

(ⅱ) 裁判所の判断
乙土地は一筆の土地であり、乙土地上の建物も一棟の建物であることが認められ、乙土地全体が一棟の貸家の敷地として利用されているといえ、原告ら主張のように、上記貸家の借家人らが本件敷地部分を通行していたとしても、それは、本件敷地部分を上記一棟の貸家の敷地として利用しているにすぎないものであり、乙土地のうち本件敷地部分を他と区別して評価する必要性、合理性は認められないから、本件敷地部分は評価通達24に定める私道に該当しないというべきである。(結論;乙土地全体を貸家建付地として評価)

(2)老人クラブの集会所に付随する用途に供されている土地
平成15年9月25日仙台地裁 TAINSコード:Z253-9446
(この判決も、各私道の概要や状態を記載していないので、老人クラブの集会所に係る論点のみまとめました。)
(ⅰ) 被告(国)の主張
私道番号4は、公道から老人クラブの集会所への出入りや老人クラブの集会所を利用する者の駐車場用地等、老人クラブの集会所に付随する用途に供されている。
原告甲は、老人クラブの集会所は、公共的施設等に該当するから、私道番号4は、価額を零と評価すべき私道である旨主張する。
しかしながら、評価通達24は、評価対象地が私道であるとした場合の評価についてのものであり、私道ではなく、宅地と併せて1画地として評価するのを相当とする土地については、そもそも適用にならない。仮に、私道番号4が私道評価を受けるとしても、一老人クラブが、会員の会合等のために利用しているのであれば、利用者は特定されているのであって、「不特定多数の者」の通行の用に供されているとはいえない。
よって、私道番号4は、私道減価をせず、老人クラブの集会所の敷地と併せて1画地として評価するのが相当である。

(ⅱ) 原告の主張
財産評価基本通達逐条解説によると、価額を零と評価すべき私道として、「行き止まりの私道であるが、その私道を通行して不特定多数の者が地域等の集会所、地域センター及び公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合などにおけるその私道」が挙げられており、私道番号4は、集会所に該当する老人クラブの集会所へ出入りする高齢者等が通行していることから、上記の価額を評価しない私道の例に該当する。したがって、私道番号4の価額の評価は、零とすべきである。

(ⅲ) 裁判所の判断
私道番号4は、老人クラブの集会所に付随する用途にのみ利用されているものとして、私道減価をせずに、老人クラブの集会所の敷地と併せて1画地として評価するのが相当である。
原告甲は、財産評価基本通達逐条解説を引用して、老人クラブの集会所が公共施設等に該当するから、土地の価額を零と評価すべきである旨主張するが、同解説が土地の評価をしない私道として掲げている公共施設等の例は、当該宅地が私道と評価されることを前提として、その私道としての減価割合を40%(注改正前の割合)とするか100%とするかの問題であると認められるから、原告甲の主張は本件への適用の前提を欠き、採用することができない。

(3)コメント
(1)の平成20年3月13日神戸地裁判決も(2)の平成15年9月25日仙台地裁判決も土地の形状や周辺図が添付されていないので非常にわかりにくいのですが、裁判所の判断では、私道ではなく、宅地の一部であると判示されています。
また、(2)の判決は、スーパーの利用客らが利用している別の土地についても判断されています。こちらも、私道の形状が不明なので、裁判所の判断の部分のみご紹介します。
「私道番号6は、GアパートAへの出入りや自動車置場など、同アパートに付随する用途に供されている。同様に、私道番号7は、GアパートBへの出入りや自転車置揚など、同アパートに付随する用途に供されている。また、Gアパートの入居者以外のスーパーの利用客らが、通路c及び同d部分を①公道甲→通路d→私道番号6→公道乙、②公道甲→通路d→通路c→私道番号7→公道乙、とそれぞれ通り抜けることがある。しかし、通路c及び同d部分は、狭くて薄暗い上に、通路dと公道甲との境付近には、普段は開放されているものの、鉄製の門扉が設置されている。しかも、スーパーからは公道甲、乙が整備されているから、通行の頻度はさほど高くはないし、通り抜けを行う人に何らかの通行権があるわけではない。以上によれば、私道番号6及び同7並びに通路c及び同dは、私道減価をせずに、私道番号6はGアパートAの敷地と併せて、私道番号7は、GアパートBの敷地と併せて、いずれも1画地として評価するのが相当である。」

上記の文章のみを読むと「スーパーの利用客が通っているのに、私道にならないのはおかしい」と思われると思います。
私も同感ですが、私道か通路(宅地の一部)かという判断は、土地の形状や周辺の状況によっても異なりますので、現地を見てみないと正確なことはわかりませんし、残念ながら資料もないので、判断できません。ただ、このように、いろいろな人が通行しているような場所でも、私道ではなく、宅地の一部だと判断をされることがあるということを知っていただけたらと思います。

2.一部がみなし位置指定道路に指定されている土地
平成20年8月29日東京地裁 TAINSコード:Z258-11014 
(1)概要
E-1土地の一部に、昭和7年3月26日に告示された幅員6mの告示建築線(N土地)が存在し、その地積は388.80㎡である。N土地はみなし位置指定道路として道路台帳に登録されている。
原告は、本件N土地はみなし位置指定道路として道路台帳に登録されており、土地利用について制約を受けているから、位置指定道路と同様に私道に準じて減額した評価(自用地の30%)をするべきであると主張していました。

(2)裁判所の判断
本件N土地はその全部が本件E-1土地上に存在しており、また、本件E-1土地は建物の敷地として利用されていたのであるから、本件N土地に道路としての実体はなかったということができる。そうすると、本件N土地は、道路の用に供されておらず、実際には何ら土地利用に関する制約を受けていなかったということができる。
また、みなし位置指定道路上に建築物を建築する場合などには、道路位置指定の廃止手続が必要になり、その際には、当該道路に係る土地の所有者及びその土地又はその土地にある建築物若しくは工作物に関して権利を有する関係権利者の承諾が必要となるところ、本件N土地は本件E-1土地上に存在するのであるから、本件N土地に係る関係権利者は、本件E-1土地を相続した丙のみである。そのため、本件N土地に係る道路位置指定については、本件N土地の所有者である丙がその廃止手続の申請をしさえすれば、容易に廃止することが可能である。(-中略-)このように、本件N土地については、実際には何ら土地利用に関する制約を受けておらず、また、道路位置指定についても容易にその廃止手続をすることができるのであるから、私道に準じて減額して評価すべき理由は見当たらない。

(3)コメント
このようにみなし位置指定道路となっていたとしても、実際に道路の用に供されていない場合、私道の評価をすることはできません。位置指定道路の実際の現況をきちんと判断する必要があります。

3.接道義務を満たすために使用借権の設定がされた土地
平成23年1月28日静岡地裁 TAINSコード:Z261-11605
(控訴審である東京高裁平成23年7月20日判決では原審判決引用。最高裁平成24年8月29日判決では、上告棄却・不受理)
(1)概要
K土地は、平成9年10月23日、亡A(被相続人)所有の浜松市の土地から分筆された。同月27日、訴外Eら所有のK土地の東側隣接地と併せて、訴外Cに対して使用借権を設定すべく、農地法5条1項3号に基づく農地転用の届出が行われ、その後、K土地及びK土地東側隣接地につき同人の使用借権が設定された。
K土地は、同人がK土地東側隣接地上に住宅を建築するに当たり、南側通路と併せ、建築基準法上の接道義務を充たすために、使用借権の設定がされたものである。(K土地は、建築基準法42条所定の位置指定道路及び2項道路のいずれにも該当しない。)
訴外Cは、平成9年12月3日、K土地東側隣接地の北側隣接地の所有者との間で、同土地の一部について、訴外Cらが使用する自動車等の通行のみを目的とする使用貸借契約を締結した。なお、K土地及び南側通路方面は幅員が狭くなるため、同方面から自動車が出入りすることはできない。
平成10年3月26日、K土地東側隣接地上に訴外C所有の住宅が新築され、以降、同人らがこの建物に居住している。
南側通路は砂利道として整備されているのに対し、K土地は舗装や砂利敷きはなく、地面が露出し、部分的に雑草が生えている。また、南側通路とK土地の境界には高さ数センチメートル程度のコンクリートブロックが全域又はほぼ全域にわたって設置されている。
K土地の幅員は2メートル前後、南側通路の幅員もほぼ同程度である。

(2)原告らの主張
K土地は、その東側隣接地(K土地東側隣接地)に訴外C所有建物を建築する際に、その南側隣接地(南側通路)と併せ接道義務を充たすために不可欠な敷地として、平成9年10月23日に分筆されたものである。
本件相続開始時、K土地においては、C所有建物の利用者による通行等の利用を妨害する行為が一切禁止され、K土地所有者の意思に基づく利用及び処分は不可能な状態になっている。また、現実にも訴外CらがK土地を通路として使用している。
したがって、K土地は、南側通路と一体として、私道の用に供されており、かつ、不特定多数の者の通行の用に供されているから、評価基本通達24に従い、K土地の評価額は0円である。仮に不特定多数の者の通行の用に供されていなかったとしても、私道の用に供されており、評価基本通達24に従いK土地の評価額に100分の30を乗じて評価すべきである。

(3)被告(国)の主張
K土地は、現況が畑となっているJ土地と外形上物理的一体性を有しており、その表面は褐色の土地で覆われている一方、南側通路は灰色の砂利で覆われており、かつ、K土地と南側通路とは、コンクリートにより明確に区分されていることから、K土地と南側通路が一体的に使用されているとはいえない。
また、C所有建物とK土地の間には生垣のような樹木が植えられ、同建物の玄関が南側に面しているところ、C所有建物の居住者がK土地を通行の用に供するのは不合理、不自然である。
さらに、訴外Cは、K土地以外に別途土地を使用貸借し、自らの車両の通行を確保している。
以上からすれば、K土地が通行の用に供されていないことは明らかであり、評価基本通達24を適用することはできない。
なお、原告らは、審査請求の段階において、K土地については相続当時から道路としての利用はなく、道路としての使用は不能であったことを認めている。

(4)裁判所の判断
K土地及び南側通路方面は、幅員が狭くなるため、自動車による通行がされることは考えられず、実際に訴外Cらにおいても自動車による通行は別の方面から行っており、K土地及び南側通路方面については、徒歩又は自転車等の方法による出入りのみが可能である。
そして、南側通路は幅員が2メートル程度あり、徒歩又は自転車等による通行に十分な幅があるものといえる上、K土地は地面が露出するなどしているのに対し、南側通路は砂利道として整備され、より歩行に適する状況となっており、K土地と南側通路の境界もコンクリートブロックによって区分されている。
このような状況に照らすと、K土地及び南側通路付近を通行する歩行者等は、南側通路上を通行するのが通常であると推認することができ、あえてK土地部分を通行することは考え難いといわざるを得ない。
そうすると、南側通路はともかく、K土地は、現に人の通行の用に供されているとはいえないから、私道の用に供されているものとはいえない。
これに対し、原告らは、K土地はC所有建物が接道義務を充たすため訴外Cに対して使用借権が設定されたものであり、K土地においてはC所有建物の利用者による通行等の利用を妨害する行為が一切禁止され、K土地所有者の意思に基づく利用及び処分は不可能な状態になっているから、K土地は、南側通路と一体として、私道の用に供されていると主張する。
しかし、K土地は、その現況からは、現に人の通行の用に供されているとは認められないのであり、接道義務を果たすために使用貸借契約が締結されているとしても、現に当該契約の目的に従って通行の用に供されているという状況が認められない以上、私道の用に供されているとは認めることができないというべきである。よって、原告らの上記主張は採用できない。

(5)コメント
この判決は、土地の利用状況の変遷が重要なポイントとなった事例です。
K土地は、奥にある土地の接道義務を充たすために使用借権の設定をしていますが、現況において、道路として現に人の通行の用に供されているとは認められないと判断されて、私道の評価を否認されています。
建物の建築以後、利用状況が変遷したということですが、この判決もなかなか厳しいですね。

4.マンションの敷地内の私道
マンションの敷地を評価する場合、マンションの敷地内に道路や通路の用に供されている宅地が多く含まれていることがあります。このようなマンションの敷地内の道路や通路の評価についてはどのように考えたらいいのでしょうか?
判決・裁決では、私道の用に供されているとして30%の価額で評価すると判断された事例と私道ではなく、敷地の一部に含めて評価すると判断された事例がありますので、ご紹介します。

(1)私道の用に供されているとして30%の価額で評価すると判断された事例
平成14年12月18日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-391
(ⅰ)概要
被相続人は、乙土地上の建物3棟及び丙土地上の建物6棟を平成6年10月1日に、被相続人の同族会社であるA社に譲渡し、乙土地、丙土地は、その頃から被相続人がA社に賃貸している。なお、A社は当該建物を居宅用として第三者に賃貸している。
乙土地及び丙土地は、同土地上の建物の入居者が専ら公道と入居家屋との出入りのための通行の用に供している宅地の部分(本件私道)が存する。
本件私道は、ともに行き止まりで、駐車スぺースとは区分使用されている。
乙土地の本件私道部分は93.60㎡(幅3m×奥行31.2m)で、丙土地の本件私道部分は145.20㎡(幅3m×奥行48.4m)である。

(ⅱ)国税不服審判所の判断
乙土地及び丙土地は、相続開始日において、その一部が、いずれも建物入居者の私道の用に供され、駐車スペースとは区分使用されていることが認められ、そうすると、宅地が私道の用に供されていることにより、土地の使用収益及び処分に制約があることを斟酌して減額評価する趣旨で設けられている評価基本通達24及び同通達25の定めに基づき、両土地のうち私道の用に供されている宅地の部分については、両土地について路線価方式による画地計算の方法によって算定した価額の100分の30に相当する価額によって評価を行うことが相当である。

【類似の事例】
平成22年10月13日裁決 TAINSコード:F0-3-252 
実測地積が11,345.91㎡のマンションの敷地の公衆化している建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する道路(998.41㎡)及び公衆化している公園(563.22㎡)は、評価対象地積から外すとされた事例。

(2)私道ではなく、敷地の一部に含めて評価すると判断された事例
平成25年11月28日広島高裁 TAINSコード:Z263-12344
(平成25年6月26日広島地裁、平成26年7月3日最高裁 上告不受理)

(ⅰ)概要
本件は、土地1及び土地2のEないしH区画である共同住宅の通路部分が私道であるか否かが争点となった事例です。
土地1及び同2は、南側で市道に接し、また両土地のうち西側に位置する土地2は、幅60cmの細長い土地3を間に挟んで市道に面している。
そして、土地1及び同2は、コンクリートブロック塀に金属製フェンスを載置した塀によって、AないしH、J及びKの各区画(以下、「本件各区画」という。また、本件EないしH区画を併せて「本件各通路部分」という。)に分けられている。
本件AないしD区画の各土地は、同土地上の建物敷地部分とその西側部分で高低差があり、建物の西面によって区切られており、西側部分はその隣接する土地3と一体となって駐車場とされている。本件各通路部分は、上記各建物の西面を結んで仮想される直線部分より西側部分が西から東に上り斜面になっており、それより東側部分は上記各建物の敷地部分と同じ高さになっている。
本件J区画は、南側市道と同じ高さの土地で駐車場とされており、その北側に接する本件H区画と塀で区切られるとともに高低差がある。
本件AないしD区画の各土地上の各共同住宅は、いずれも1棟4戸からなる共同住宅で、南側の凹部に1階の2戸の玄関があり、また2階に上がる階段部分も同所にあって、2階の各居室への玄関部分も同所にある。なお、本件A区画と本件E区画、本件B区画と本件F区画、本件C区画と本件G区画、本件D区画と本件H区画を、それぞれ区切る塀は、各共同住宅の凹部に面する部分が開放されている。

(ⅱ)原告(控訴人)の主張
(原審における主張)
本件各通路部分は、①本件AないしD区画に隣接し、②概ね長さ22メートル、幅2.5メートルと細長く、道路としての形状を有し、③アスファルトで舗装され、④沿接する宅地とはブロック及び金属製の柵で区画され、⑤専ら、公道から本件AないしD区画上に建築された本件各共同住宅へ至る通行の用に供されていることから、社会通念上の私道に当たることは明らかである。また、本件各通路部分は、それぞれ本件AないしD区画の効用を助け、自らの利用価値についてはほとんど認めることはできず、将来、隣接する宅地とともに宅地として利用・処分される可能性はあり、専ら特定の者の通行の用に供する袋小路であるから、評価通達上も、当然に私道に該当する。
(控訴審である高裁における主張)
本件各通路部分は、建築基準法35条等により敷地内通路とされ、通路以外の利用価値はほとんどない上、通路の維持管理の負担がかかるものである。そうすると、本件各通路部分は、本件各共同住宅の敷地とは別個の画地というべきであり、評価通達24前段にいう私道〔専ら特定の者(上記住宅の賃借人)の通行の用に供する行きどまり道路〕として減額評価されるべきである。

(ⅲ)裁判所の判断
本件各土地及び同土地上の各共同住宅は同一の者が所有している上、本件各通路部分は、賃貸物件である本件各共同住宅の建設の際、その居住者の利用に供されることを予定して、同部分の北側の本件各共同住宅と一体のものとして整備されたものである。また、本件各通路部分の構造上、同部分を通行するのは、いずれも、その北側の各共同住宅の賃借人及びその同居者たる居住者ら並びにその訪問者のみであって、それ以外の者が利用することは考えられない。さらに、本件各通路部分については、建築基準法上の位置指定道路とされるなど、その権利が制限されるような法的な事由も見あたらない。
以上の本件各通路部分及びその北側の各共同住宅の構造、機能、所有関係、利用関係等に照らすと、本件各通路部分は、いずれも、私道の用に供されている宅地とはいえず、その北側の本件各共同住宅の敷地の一部と認めるのが相当である。

【類似の事例】
平成2年5月22日大阪地裁 TAINSコード:Z176-6513

(3)コメント
(2)の平成25年11月28日広島高裁判決の場合、構造上、各通路部分を通行するのは、いずれも、その北側の各共同住宅の賃借人及びその同居者たる居住者ら並びにその訪問者のみに限られることが「通路」と判断されたポイントのようですが、(1)の成14年12月18日裁決との違いは明確ではありません。(2)の図にあるように、構造上、閉鎖的な空間となっていることがネックになったのかもしれません。また、「特定の者」又は「不特定の者」についての裁判所の考えも必見です。

5.歩道状空地について判断された事例 
歩道状空地とは、マンションや大型施設を建築する際、地方公共団体の指導要綱等を踏まえた行政指導により整備される歩道です。
歩道状空地は、容積率や建ぺい率の緩和のために設置されるといわれていますが、車道に沿って設けられ、塀や壁によって遮断されていないので、居住者以外の第三者による通行もできます。
この歩道状空地について、平成29年2月28日最高裁判決で私道の評価を行うという判断が言い渡されましたが、この判断は、どういうものを「私道」と考えるのか、どういった理由で減額を認めるのかといったことが書かれていますので、理解を深めるためには必見です。
ここでは、最高裁の判断のみ抜粋してご紹介します。なお、赤字の部分は、判決書で下線が引かれていたところです。

平成29年2月28日最高裁 破棄差戻し TAINSコード:Z267-12984
(平成27年7月16日東京地裁、平成28年1月13日東京高裁)
【裁判所の判断】
相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定めているところ、ここにいう時価とは、課税時期である被相続人の死亡時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。そして、私道の用に供されている宅地については、それが第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべきものということができる。
そうすると、相続税に係る財産の評価において、私道の用に供されている宅地につき客観的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を、建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はなく、そのような宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定する必要があるというべきである。
これを本件についてみると、本件各歩道状空地は、車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので、いずれも相応の面積がある上に、本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる。また、本件各歩道状空地は、いずれも本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったものであり、本件各共同住宅が存在する限りにおいて、上告人らが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い。そして、これらの事情に照らせば、本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、このことから直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないということはできない。
以上によれば、本件各歩道状空地の相続税に係る財産の評価につき、建築基準法等の法令による制約がある土地でないことや、所有者が市の指導を受け入れつつ開発行為を行うことが適切であると考えて選択した結果として設置された私道であることのみを理由として、前記において説示した点について具体的に検討することなく、減額をする必要がないとした原審の判断には、相続税法22条の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
したがって、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。原判決は破棄を免れない。そして、本件各歩道状空地につき、前記において説示した点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。