ここでは、2019年5月~7月に、私の旧ブログでアップした不動産賃貸業のための消費税、固定資産税の記事をご紹介します。

2019/05/24 Fri 00:02
自宅兼事務所の消費税のリスク
先日、不動産会社の方とお話しする機会がありました。
そして、そこで、自宅兼事務所としての賃貸について伺ったのですが、その方は、お客さんが、自宅兼事務所で利用可能な賃貸物件を探しに来られても、「事務所利用可」の物件以外はご案内しないとのことでした。
どうしてかと言うと、居住用として賃貸していた部屋を、事務所として賃貸すると、大家さんにどんな消費税のリスクがあるか、わからないからだと仰っていました。

なるほど、課税売上げが多くなることで、思わぬ消費税の負担を負うことになってしまうことも確かにあるな…と思いました。
が、その場では、具体的にどんなリスクがあるのか思い付かなかったので、少し整理してみました。


1.店舗兼用住宅の貸付け
まず、消費税では、店舗等併用住宅の貸付けは、賃貸借契約において居住用に供されることが明らかにされている部分の貸付けは非課税となります(消基通6-13-5)。ですので、家賃収入を居住用部分と事業用部分の面積比などにより按分して、課税売上げと非課税売上げを計算します。
国税庁のホームページに質疑応答事例がありますので、ご参照ください。
【参考】国税庁ホームページ:質疑応答事例 消費税 店舗等併設住宅の貸付け 
 http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/09/04.htm

しかし、契約書に、「この部屋を事務所として使用します」ということが明記されている場合は少ないと思いますので、借りた人が事務所として使用する面積が不明だということが殆どだと思います。そういう場合は、「部屋全体が居住用に供されることが明らか」にされていないので、全て事業用となると考えるのでないかと思いますが、これは、あくまで私見ですので、その旨ご了承ください。

2.居住用で契約していたのに、事業用として使われていた場合
では、次に、居住用で契約して賃貸していたのに、いつの間にか、事業用として使われていたというケースの消費税の課税関係を説明します。

大家さんが一番心配されているケースだと思います。
しかし、最近は、賃借人の悪意ではなく、雇用契約だったのに、請負契約に変更となったため、自宅が事務所となったというケースが増えています。
また、定年後に事業を始めたという方も増えていますし、大企業でも、社員の副業を認める会社も増えていますので、当初、居住用として契約し、入居していたのに、事情が変わって、自宅の一部で事業をすることになったというケースもあると思います。

ただ、雇用用契約だったのに、請負契約に変更となったという場合、税法上は、その収入が、事業所得に該当するか、給与所得に該当するかという問題があって、これはやはり給与所得ではないかと考えられる場合もあるのですが、ここでは事業所得に該当するとします。
また、企業に勤めている人の副業については、所得税法上は、事業所得ではなく、雑所得に該当する場合が殆どですが、消費税法では、事業については、その規模を問いませんので、この場合もやはり消費税法上は、事業を始めたということになります。
【参考】国税庁ホームページ:質疑応答事例 消費税 会社員が自宅に設置した太陽光発電設備による余剰電力の売却
http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/42.htm

では本題に入ります。
当初、居住用として賃貸していた部屋を賃借人が、大家さんの承諾を得ずに事業用に使用した場合、その部屋の賃貸収入は消費税法の課税売上げに該当しません。そして、賃借人も課税仕入れに該当しませんので、仕入税額控除を受けることはできません。
つまり、大家さん側は、居住用として非課税売上げに該当し、賃借人も非課税仕入れに該当するということになります。

ただ、大家さんと賃借人が話し合って、事業用に使用することについて契約を変更した場合は、その契約後の期間については、賃貸収入は課税売上げに該当し、賃借人も課税仕入れとして仕入税額控除を受けることができます。
【参考】国税庁ホームページ:質疑応答事例 消費税 用途変更の取扱い
http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/09/05.htm

3.まとめ
ということで、大家さん側から言えば、自宅兼事務所として契約して部屋を貸した場合、消費税法上は、居住用と事業用に分けて、居住用は非課税売上げ、事業用は課税売上げにする。
居住用として契約して部屋を貸した場合は、その後に賃借人が自宅兼事務所として使用していても、契約を変更しない限り、全て居住用となり、非課税売上げとなるということです。

しかし、消費税のリスクは、これだけではありません。それに、消費税だけではなく、固定資産税のリスクもあります。が、長くなったので、次回にします。

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2019/07/25 Thu 15:10
自宅兼事務所の消費税のリスクー消費税の納税義務
女性税理士の小菅です。
今日は、ブログのカテゴリー「不動産賃貸業のための消費税」の2回目、消費税の納税義務についてお話しします。

まず、不動産賃貸業の消費税の納税義務で気をつけないといけないのが、前回のブログにも書いていますが、居住用の契約か、事業用の契約かということです。
元々、居住用として契約している場合は、その後、事業用に契約の変更をしない限り、居住用の契約のままです。
居住用として賃貸する場合は、消費税は非課税売上げとなりますので、今日、お話しする消費税が増加する云々というお話は無関係です。
今日お話しするのは、事業用として契約して貸す場合ですので、ご注意ください。

では、本題に入ります。
自宅兼事務所の物件や居住用として貸していた部屋を事業用として貸した場合、事業用の契約に変更した場合などは、課税売上げとなります。

消費税のリスクは課税売上げによって違ってきますので、課税売上げの増加によって、消費税の課税関係が異なるケースを、①課税売上げが増えても消費税の納税義務無しの場合、②課税売上げが増えて、消費税の納税義務者になった場合、③元々、消費税の納税義務者ですという場合の3つに区分して説明します。

①課税売上げが増えても消費税の納税義務無しの場合
消費税の納税義務者は、課税売上高が1千万円を超える者です。
課税売上げが増加しても、課税売上高が1千万円を超えない方は、納税義務は生じないので、今までどおり、消費税は無関係だと考えて大丈夫です。

②課税売上げが増えて、消費税の納税義務者になった場合
もし、課税売上げが増えて、課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務者となります。

例えば、今まで課税売上げが900万円(税抜き)で免税事業者だった人が、事業用として120万円(月10万円税抜き)の収入が増加すれば、課税売上高が1020万円となり、納税義務者となります。

では、ここで、上記の場合の消費税を、地方消費税込み、税率8%で、ざっくりと計算してみますが、計算に入る前に、注意していただきたいことを簡単にご説明します。
※注意1 税抜きの課税売上げが900万円ということは、消費税込みだと972万円の課税売上高、税抜きの課税売上げが120万円ということは、消費税込みの課税売上高は129万6千円となります。ここでは、計算を簡単にするため、税抜きにしていますが、収入として入る金額は、消費税込みの金額です。
※注意2 下記の納付税額の計算の簡易課税制度というのは、消費税の納付税額を計算する方法の一つで、課税売上に係る消費税から、課税売上に係る消費税×みなし仕入れ率を控除することによって、簡単に消費税を計算することができる方法です。
ここでは、詳しく説明することはできませんので、詳細は、国税庁ホームページなどでご覧ください。

では計算してみます。
課税売上げに係る消費税
 (960万円+120万円)×8%=816,000
簡易課税制度を適用した場合の納付税額(みなし仕入れ率40%)
 816,000-816,000×40%=489,600円 ∴489,600円
納付税額は、489,600円になります。
…ということは、今まで消費税の納付税額がゼロ円だった人が、120万円の課税売上げの収入が増えただけで、489,600円も納付しないといけなくなります!!!
ちょっとびっくりしますね。
でも、これは、今まで、事業用の部屋について、消費税を預かっていても、免税事業者だったので、納付しなくても良かったのが、納税義務者となったため、その部分についても納付しないといけなくなったためです。
つまり、今までは、いわゆる益税が生じていたのです。
従来の900万円の収入について、8%の72万円の消費税の預かり税額があったにもかかわらず、納付税額が0円だったので、72万円が益税になっていたのです。
なので、本来であれば、489,600円を納付することが当然といえば当然なのですが、ちょっとショックですよね。

③元々、消費税の納税義務者ですという場合
では、元々、消費税の納税義務者だった場合はどうでしょうか?
課税売上げが2400万円(税抜き)の人が、120万円(月10万円・税抜き)の収入が増加した場合を考えてみます。

課税売上げに係る消費税(地方消費税込みで、税率8%)
 (2400万円+120万円)×8%=2,016,000
簡易課税制度を適用した場合の納付額(みなし仕入れ率40%)
 2016,000-2016,000×40%=1209,600円 ∴1209,600円
納付税額は、1209,600円になります。

この場合、120万円の収入が増える前の消費税の納付税額は、1152,000円です。
 (2400万円×8%=1920,000、1920,000-1920,000×40%=1152,000円) 
ですので、消費税の増加額は、1209600-1152000=57,600円。

ということは、120万円の収入が増えることによって、消費税が、57,600円増加します。
が、しかし、その分、消費税も預かります。
10万円の家賃収入に対して、8%の消費税を預かっていますので、12か月分の消費税の預かり分96,000円から、納付税額57,600円を差し引いても、38,400円残ります。
ということは、大家さんが、元々、消費税の納税義務者だったら、課税売上げが増えても大丈夫ですね。

ところで、上記の計算は、簡易課税の適用がある課税売上げが5千万円以下の方を対象としています。
簡易課税の適用がない場合は、上記のように、消費税の税額から、課税売上げの40%もマイナスできません。
マイナスできるのは、実際に支払った課税売上げに対応する課税仕入れの額の消費税相当額だけです。
そうなると計算が非常に複雑になりますので、ここでは省略しますが、不動産賃貸業の場合、課税仕入れは非常に少ないので、消費税の預かり分は、ほぼ納付しないといけないと考えていただいた方が良いと思います。

ということで、課税売上げが増加して、そのために納税義務者になってしまうという②の場合が、一番リスクが高く、この場合に該当しないかどうかだけは、確認する必要があると思われます。
ご心配な方は、是非、ご自身の顧問税理士にご相談ください。
手数料はかかるかもしれませんが、いきなり「48万円納付が必要です」と言われるよりは、マシかと思います(‘◇’)ゞ。

2019/07/29 Mon 02:04
自宅兼事務所の消費税のリスクー固定資産税のリスク
女性税理士の小菅です。
今日は、事業用として部屋を賃貸するときの固定資産税のリスクについてお話しします。

皆様もご存じのとおり、固定資産税は、住宅用地について課税を少なくしています。
住宅用地については、200㎡までの部分は価格×1/6、200㎡を超える部分は価格×1/3で計算することとなっていて、これを「住宅用地の特例措置」といいます。
この「住宅用地の特例措置」は、住宅用地の特例なので、賃貸物件を住宅用以外で使用すると、この住宅用地の特例措置が適用できなくなる恐れがあります。
そして、もし、適用できなくなると、固定資産税が6倍になります。
ちょっと負担が大きいですね(+o+)。
でも、これは、住宅用以外で使用すると即全部NGとなる訳ではありません。
家屋の種類と居住用部分の割合によって、住宅用地の特例措置が適用できる面積が異なります。
東京都主税局のHPの表の貼り付けができなかったので、文章で書いてみましたが、次のようになります。

(1)家屋の種類が、地上階数5以上を有する 耐火建築物である家屋
居住用部分の割合が、1/4以上1/2未満のときは、土地の面積に0.5を乗じて得た面積に相当する土地が住宅用地となり、特例措置の適用を受けることができます。
居住用部分の割合が1/2以上3/4未満のときは、土地の面積に0.75乗じて得た面積、居住用部分の割合が3/4以上のときは1を乗じて得た面積に相当する土地が、住宅用地となります。

ということは、5階建て以上のマンションだと、3/4以上を居住用として使用していれば、全部が住宅用地の特例措置を適用することができ、反対に、居住用部分の割合が1/4未満の場合は、全部が住宅用地の特例措置の適用を受けることができないということになります。
そして、居住用部分の割合が、1/4以上1/2未満で50%、1/2以上3/4未満で75%の面積が特例措置の適用を受けることができるということになります。

(2)家屋の種類が↑に掲げる家屋 以外の家屋
居住用部分の割合が、1/4以上1/2未満のときは、土地の面積に0.5を乗じて得た面積に相当する土地が住宅用地となります。
そして、居住用部分の割合が、1/2以上のときは、1を乗じて得た面積となっているので、全部が住宅用地の特例措置の適用を受けることができます。
ただ、この場合も、居住用部分の割合が1/4未満の場合は、全部が住宅用地の特例措置の適用を受けることができません。
(居住部分の割合は、居住部分の床面積÷家屋の総床面積で求めます。)

家屋の全部又は一部の用途を変更した場合は、住宅用地等に関する申告を行わなければいけません。
詳しくは東京都主税局のホームページの「住宅用地及びその特例措置」をご参照ください。

ということで、固定資産税についても、やはり納付税額が増えるというリスクがありました。
ただ、4階までの建物だと1/2以上、5階建以上の建物だと3/4以上が居住用部分の場合は、全部が住宅用地の特例措置を受けることができるので、賃借人がその割合で居住用として使用していればセーフです。
これは、業種によっても違うと思いますが、デスクワーク中心の業務であれば、パソコンと机とその周りぐらいで、そんなに場所もとらないのではないかと思います。
ただ、もし、自宅でエステサロンをする等、一部屋まるまる事業用で使うような業種で、もしかすると、固定資産税が増えるのではと思われる場合、賃借人とお話をして、その固定資産税の増加分を家賃に上乗せする等の措置をされても良いのではないでしょうか(^^)/。