ここでは、貸家建付地の評価における賃貸割合について説明しています。
【目 次】
1.貸家建付地の評価
2.賃貸割合とは
3.一時的に空室であったと認められた事例
4.コメント



1.貸家建付地の評価
貸家建付地とは、土地の上にある貸家を賃貸している土地のことです。
貸家建付地は、家を借りている人の権利が存在するので、自用地として評価した価額を減額することができます。
具体的には次の算式によって評価します。
【算 式】

2.賃貸割合とは
貸家建付地で問題となるのが、上記算式中の「賃貸割合」です。
この「賃貸割合」は、相続開始時に賃貸されている割合とされている為、相続開始時に入居者がいないときは、賃貸割合が「0」となって、貸家建付地としての減額が0円となってしまうからです。
学生さんのアパートなど、翌月には新入生で空室が全部埋まるかもしれないのに、3月の大学を卒業して退去する人が多いときに評価することとなる場合、賃貸割合が低くなってしまいます。
これは問題ですね。
ということで、この賃貸割合について、財産評価基本通達26では、「継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない。」としています。
つまり、課税時期(相続開始時)に「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」は、賃貸しているものとして賃貸割合に含めてもいいということです。
ただ、この「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の「一時的」というのは、どの程度の期間をいうのか、ということがこの通達には書かれていません。
ということで、もう少し調べると、国税庁HPのタックスアンサー№4614が見つかりました。ここに詳しく書かれているので、引用します。

上記のとおり、一時的に賃貸されていなかったと認められる場合は、①アパート等の部屋が継続的に賃貸されていたもので、②賃借人の募集が行われていて、他の用途にも使用されていない、③空室期間が1か月程度で、④もし入居があった場合でも一時的なものではないという4つの要件を満たす場合ということになります。
④ の入居が一時的なものではないという条件は、賃貸割合を高くするために、賃貸があったように偽装することを防ぐものです。
しかし、かなり、厳しい要件となっています。
特に、空室期間が1か月程度というのは、非常に厳しいです。
引っ越しシーズンと言われる3月ならわかりませんが、空室になって、1か月程度で新しく入居者が見つかるものでしょうか???
そして、空室期間が1か月程度でないとその部屋は賃貸割合に含めないことになりますが、空室となっているからといって、部屋はそのまま賃貸用として使用しています。
入居者がいないということは、もちろん売却することもできますが、退去後もそのまま賃貸用として使用しているのにもかかわらず、賃貸用としての評価をすることができないのです。これには、疑問を持たれる方も多いと思います。
この疑問について、平成29年5月11日大阪高裁判決では次のように説明されています。
「企画官情報には、評価通達26(注)2の趣旨につき、「建物の全部又は一部が、貸し付けられているかどうかについては、課税時期における現況に基づいて行うのが原則である」が、「継続的に賃貸の用に供されているような場合について、原則どおり賃貸割合を算出することは、不動産の取引実態等に照らし、必ずしも実情に即したものとはいえない」、「そこで、継続的に賃貸されていたアパート等の各独立部分で‥アパート等の各独立部分の一部が課税時期において一時的に空室となっていたに過ぎないと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものとして取り扱って差し支えないこととした」と記載されており、これによれば、アパート等の各独立部分につき、当該部分が継続的に賃貸されていたことを前提としつつ、課税時期において賃貸されていなかったことが一時的なものであることを要件として、例外的に貸家建付地としての減額を行うことが説明されている。」
「相続財産につき、貸家及び貸家建付地として所要の減額を行うか否かは、課税時期において当該財産が現実に賃貸されているか否かを基準に判断すべきであって、現実に賃貸されていない場合には、借家権が存在することに伴う種々の制約による経済的価値の低下がない以上、貸家及び貸家建付地として所要の減額を行わないのが原則であり、課税時期に現実に賃貸されていないにもかかわらず、一時的空室部分として評価して賃貸されているものに含めることとして差し支えないとする評価通達26中2の定めは例外的な取扱いを定めたものにすぎない。そして、評価通達26(注)2が「「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない」と定めるとおり、課税時期において賃貸されていなかったことが「一時的」なものであることを要件としていることからすると、上記例外的な取扱いが認められるか否かを判断するに当たっては、賃貸されていない期間(空室期間)が重要な要素となることは明らかである。
そうすると、一時的空室部分該当性の判断に当たっては、現実の賃貸状況、取り分け、空室期間の長短を重要な要素として考慮しなければならないのであって、これを考慮せずに、本件各空室部分が「継続的に賃貸の用に供されている」状態にあるという理由のみで上記例外的な取扱いを認めることはできない。」

つまり、あくまでも例外なのだから、「一時的」なものについて認めているだけということですね。

実際にも、平成29年3月7日神戸地裁判決では、空室期間が短いもので2ヶ月と23日で、平成24年6月●日の相続開始前の平成24年5月1日~平成24年7月23日までの間の空室、つまり、被相続人が亡くなる前の月から空室で、被相続人が亡くなった翌月には入居者が決まったという物件でも、一時的な空室であったと認められないとされています。
本当に厳しいですね。

ただ、TAINSに一つだけ、課税処分が取消しとなった裁決がありますので、ご紹介します。

3.一時的に空室であったと認められた事例
平成20年6月12日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-296
(1)概要
本件の相続財産である鉄筋コンクリート造陸屋根4階建共同住宅について、相続開始時点において賃貸されていた部屋は全20室のうち16室で、残り4件の空室期間は次のとおりでした。
202号室 2カ月
204号室 1年11カ月
305号室 5カ月
403号室 9カ月

(2)審判所の判断
相続開始時において賃貸されていなかった部屋(本件空室)が一時的に空室であったか否かについては、本件空室の課税時期(相続開始時)における空室期間を捉えて、一時的な空室か否かを判断することは相当でなく、いかなる状況下においてかかる空室期間が生じていたか等の諸事情をも総合勘案して判断すべきところ、本件空室の課税時期(相続開始時)における空室期間は、短いもので2か月、長いもので1年11か月ではあるが、認定事実によれば、請求人は、本件空室について速やかに所要の手当てを施した上で不動産業者に入居者募集の依頼を行っているほか、築25年の本件建物について定期的に補修等を施すなど、経常的に賃貸に供する意図が認められる。なお、本件建物の近隣周辺にはマンション等の共同住宅が林立していることからすると、空室が発生したからといって速やかに新入居者が決定するような状況ではなかったことが認められる。また、本件建物の各部屋の間取りも20室すべてが統一されたものであり、各室に対応した駐車スペースも確保されるなど、その形状は共同住宅としてのものにほかならない。加えて、本件被相続人は、本件相続開始日まで継続して■■マンションを賃貸の用に供し、不動産収入を得ていたことは明らかである。
以上のことを総合して判断すると、本件空室は本件情報に定める一時的に空室となっていたにすぎないものであると認められる。

4.コメント
上記裁決は、マンションの近隣周辺に、マンション等の共同住宅が林立していることから、空室が発生したからといって速やかに新入居者が決定するような状況ではなかったという空室期間が長くなった事情を考慮してくれたということですね。
新たな賃貸借契約が締結されなかったことについて合理的な理由が存在したなどの事情があれば、空室期間が1か月以上であっても「一時的空室」と認められる可能性もあるかもしれません。

ほかにも、空室のある賃貸用マンションの評価について、相続開始日現在で入居申込書の提出のみで、賃貸契約書が取り交わされていなかったという事例があります。
国税不服審判所は、「入居申込書の提出の段階では、賃借人の入居したいという意思表示は認められるものの、賃貸人の承諾の意思表示があったものとは認められず、この時点で賃貸借契約が成立したとは認められない。また、当該入居申込書は、賃貸人の承諾があったとしても、単に当事者間で賃貸契約を結ぶ予約をしたものに過ぎないと認められることから、入居申込書の提出をもって事実上の賃貸借契約の締結とすることはできない。」と判断しています。(平成13年1月31日裁決)