ここでは、私道の評価について説明しています。
はじめに
私道の評価については、財産評価基本通達24で下記のように定められています。

上記通達において、私道を、①不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通り抜け道路と、②袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路とに分けている趣旨は、上記①に該当するものは、私有物としての利用が大きく制限され公共性も強くなり、私道を廃して宅地となる可能性は極めて小さくなるので評価せず、他方、上記②に該当するものは、ある程度の制約はあるが私有物としての使用収益は可能であり、特にそのような私道に接する宅地が同一人の所有に帰属することとなると私道がその接する宅地内に包含されて宅地となる可能性を考慮したことにあるとされています(平成28年12月7日公表裁決)。

また、上記通達の「不特定多数の者の通行の用に供されている」例は、具体的は、次のようなものとなります。
ア 公道から公道へ通り抜けできる私道
イ 行き止まりの私道であるが、その私道を通行して不特定多数の者が地域等の集会所、地域センター及び公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合などにおけるその私道
ウ 私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられており、不特定多数の者が利用している場合などのその私道
(国税庁ホームページ:質疑応答事例「不特定多数の者の通行の用に供されている私道」)

ここでは、私道と判断されたものの中で、その私道が特定の者の通行の用に供されているとして、財産評価基本通達の定めにより計算した価額の30%相当額で評価するか、不特定多数の者の通行の用に供されているとして、その価額を評価しないこととされるかが争われた事例をご紹介します。

【目 次】
1.公道と公道を結ぶ道路について判断された事例
2.公道に準ずる状況にあると認められた事例
3.公衆用道路として登記された位置指定道路である私道について判断された事
  例
4.コメント



1.公道と公道を結ぶ道路について判断された事例
平成13年8月13日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-130
(1)概要
甲私道は、本件相続開始日においては、建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する道路位置の指定(位置指定道路)を受けたものである。
乙私道は、甲私道との接点から土地の南側に存する公道に至る部分である。
請求人は、甲私道、乙私道の両方について、公道と公道を結ぶ道路であるから、その価額は評価すべきでないと主張していました。

(2)国税不服審判所の判断
甲私道は、当審判所の調査の結果によれば、本件自用地部分とともに駐車場の用に供されていたと認められ、私道の用に供されていた事実は認められず、そうすると、原処分庁の主張するとおり、私道の用に供されていない土地として本件自用地部分と併せて一画地の土地として評価すべきものである。
甲私道が私道の用に供されていないのは上記のとおりであり、乙私道が公道と公道を結び不特定多数の者の通行の用に供されていたとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。なお、乙私道は、特定の者の通行の用に供されていた私道と認められ、評価基本通達24の定めにより、本件宅地の他の私道部分(甲私道を除く。)とともに、私道の用に供されていないとした場合の価額に100分の60の割合(※筆者注:平成11年改正前の減価割合)を乗じた価額で評価すべきものと認められる。

(3)コメント
乙私道の利用状況については不明ですが、上記のような位置関係から、「特定の者の通行の用に供されていた私道」と考えられたのかもしれません。

2.公道に準ずる状況にあると認められた事例
この裁決は、不動産鑑定士の鑑定評価の事例ですが、私道が公道に準ずる状況にあるとして、更地価額の10%程度の割合で評価することとされた事例です。

平成8年6月26日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-330(図の添付資料なし)
(1)概要
本件土地は716.09㎡で、このうち宅地部分は601.87㎡、建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号の規定による道路(位置指定道路)の部分は114.22㎡(本件私道)で、この裁決は、本件私道に当る位置指定道路部分の評価が争点となった事例です。
本件私道の利用状況は次のとおりです。
本件土地には3階建てのマンションが建っている。
本件私道の近隣は、中規模のマンション及び中小規模の一般住宅の混在する住宅地域を形成している。
本件私道は、通り抜けはできないが、位置指定道路の指定を受けている。
本件マンションの1階の一部には、飲食店の店舗があり、また、2階の一部は、その飲食店に併設された展示場として使用されている。

(2)国税不服審判所の判断
当審判所が請求人ら側の不動産鑑定士及び原処分庁側の不動産鑑定士以外の不動産鑑定士に本件私道の評価について意見を求めたところ、当該不動産鑑定士は、本件私道が位置指定道路に指定されており、準公道的扱いがなされていることから、将来的にも宅地に復帰する可能性の少ない道路であり、市場における交換価値も極めて小さいものと判断されるので、将来における宅地復帰の可能性及び専用私道としての利用価値をも考慮すると、更地価額の10パーセント程度の割合で評価するのが相当である旨答述している。
当審判所の調査によれば、本件マンションの1階の一部には飲食店の店舗があり、また、2階の一部はこの飲食店に併設された展示場に使用されていることから、これらの施設を利用する者は、本件私道を自由に通行することができ、また、本件私道上に車両を駐車することができる。      
本件私道は、通り抜けることはできず、公道と同視すべき状況にあるとはいえないが、本件マンションの居住者だけでなく、本件マンションにおいて開業している飲食店及び展示場の一般の利用者が自由に通行していることからすれば、公道と同様に不特定多数の者の通行の用に供されているとまではいえないものの、それに準ずるような状況にあると認められること及び本件私道の両側の宅地は他人の所有地であって、本件私道が宅地に転用される可能性はほとんどないと認められること、さらに、上記の不動産鑑定士の答述を併せ勘案すると請求人らの主張のとおり、更地価額の10パーセントの割合で評価するのが相当である。
なお、本件私道は本件宅地のための専用私道であり、本件宅地は住居及び貸家の敷地に供されているところから、本件私道も本件宅地の利用状況に応じて利用されているとみるのが相当であり、本件私道のうち貸家の敷地に供されている宅地に対応する部分については、貸家建付地としての評価を行うのが相当と認められる。

3.公衆用道路として登記された位置指定道路である私道について判断された事例
この裁決も鑑定評価の事例です。
平成23年6月7日裁決(公表裁決) TAINSコード:J83-4-24
(1)概要
本件土地は、その北西側で公道とほぼ垂直に丁字路型に交わる行き止まりの土地(以下、本件公道と交わる部分を「甲土地部分」といい、その他の部分を「乙土地部分」という。)であり、乙土地部分に隣接する土地には居宅及びアパートが存在する。(下図参照)
請求人らは、本件土地は、本件土地の沿接地の関係者及び不特定多数の者の通行の用に供されており、不動産鑑定評価上、その価額が零円となるので、評価通達の定めにより難い特別な事情があることとなるから、本件持分の価額は本件鑑定評価額を基礎とすべきであると主張していました。

(2)国税不服審判所の判断
本件土地のうち、甲土地部分は、公道と一体となっているから、不特定多数の者の通行の用に供されていると認められるものの、乙土地部分は、行き止まりのいわゆる袋小路であるから、本件相続開始時において専ら本件土地に隣接する土地上の居宅及びアパートの居住者という特定の者の通行の用に供されていると認められる。
したがって、請求人らの本件鑑定書は、本件土地を評価する上で前提となる事実の評価を誤ったものであり、その内容に合理性があるとは認められないから、これを信用することはできず、本件鑑定評価額は、本件土地の客観的交換価値を示しているということはできない。
位置指定道路は、道路交通法第2条《定義》第1項第1号に規定する一般交通の用に供するその他の場所に該当し、道路として同法の適用を受け、道路法第4条《私権の制限》の規定に準じて、一般の交通を阻害するような方法では私権を行使することができなくなるものの、所有権の移転、抵当権の設定若しくは移転を妨げないと解されており、また、私道であることから、建築基準法第45条《私道の変更又は廃止の制限》の規定上、位置指定道路の変更又は廃止の可能性が認められていないわけではない。そうすると、本件土地は位置指定道路であるが、飽くまで私人の所有に属するものとして、その維持管理は位置指定道路の目的に反しない限り所有者に任され、処分権が所有者に属し、抵当権の設定等も可能であること、及び、本件土地が位置指定道路に指定された後、実際に譲渡されていることからすれば、本件土地の処分可能性が現実的でないとはいえず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
請求人らは、本件土地のように公衆用道路として登記された土地が単独かつ有償で取引された事例はない旨主張する。
しかしながら、請求人らも認めるとおり、私道と隣接した宅地を併せて取引した事例は存在しているところ、仮に、当該私道が無償で取引されていたとしても、少なくとも当該私道の存在がその隣接する土地に利便性等を付与し、その隣接地の財産的価値を増加又は維持するという点で、当該私道は財産的価値を有していると認めるのが相当であり、請求人Cは、本件相続により隣接した土地とともに本件持分を取得していること、及び、当審判所の調査の結果によれば、登記簿上の地目が公衆用道路である私道が、平成19年にf市内で単独かつ有償で取引された事例が認められることからすれば、本件土地に財産的価値がないとはいえず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
以上のとおり、本件鑑定評価額は、本件土地の客観的交換価値を示しているということはできず、また、当審判所の調査の結果によっても、ほかに本件土地の価額を評価するに当たって評価通達の定めによることが著しく不適当と認められる特別な事情があるとは認められないから、本件持分の価額は相続税評価額をもって時価とすることが相当である。
本件土地のうち、甲土地部分は、不特定多数の者の通行の用に供されていることから、評価通達24の定めに基づき、価額は評価せず、また、乙土地部分は、不特定多数の者の通行の用に供されていないことから、同通達24の定めに基づき、同通達11から21-2までの定めにより計算した価額の100分の30に相当する価額によって評価するのが相当である。

4.コメント
3の事例は、公衆用道路として登記されている位置指定道路ですが、評価額は路線価等により評価した額の30%の評価額で評価することになりました。
やはり、書類だけで評価額を決定するのは危険で、その道路を利用している者が特定の者であるか、不特定の者であるかをきちんと判断しなければいけませんね。
また、3の事例では、位置指定道路についての考え方がとても詳しく述べられていますので、この点についても参考となる事例です。
位置指定道路についてあまりよく知らない方のために少し説明を加えます。
位置指定道路は、(建築基準法42条1項5号)に規定されている道路で、宅地が接道義務を充たしていない場合、接道義務を充たすための手段の一つとされています。

建築基準法では、43条で、建物敷地は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接することが規定されています。
ただ、この接道義務を満たさない土地の場合、幅員4メートル以上等、一定の築造基準に適合する私道を特定行政庁から道路としての位置の指定を受けることにより、道路とみなすことができるとされており、この指定を受けた私道を位置指定道路といいます。
つまり、宅地が建築基準法による接道義務を満たす幅員4m以上の道路に接していないとき、その接道義務を満たす道路に面する場所に幅員4m以上の位置指定道路を作り、その位置指定道路に、対象となる土地が面すれば、接道義務を満たすことができるため、特定行政庁から位置指定道路の指定を受けるということになるそうです。

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