ここでは、未利用の土地の評価単位が争われた事例をご紹介しています。
評価単位の基本的な知識については、下記「土地の評価-路線価による計算方法」の頁の「3 土地の評価単位の基本」に書いていますので、併せてご覧ください。

土地の評価ー路線価による計算方法

土地の評価単位は、土地の地目や利用状況によって判断しますが、では、隣接する土地が未利用の土地(空閑地)の場合はどうでしょうか?

未利用の土地の評価単位については、財産評価基本通達7-2の注書きの3に、「いずれの用にも供されていない一団の雑種地については、その全体を「利用の単位となっている一団の雑種地」とすることに留意する。」と書かれています。
いずれの用にも供されていないので、地目は「雑種地」に該当することになるのだと思いますが、住宅地にある未利用の土地等は、果たして「雑種地」として考えていいものかという疑問が残ります。
そこで、判決や裁決を調べてみましたが、事例が少なく、未利用の土地の評価単位をどのように考えるかという指針となるような判断もされていませんでした。
ただ、下記の判決と裁決では、土地が相続開始時に未利用であっても、何らかの合理的な理由により土地の評価単位を判断していて、その「合理的な理由」がどのようなものかを考えることで、実務に利用することができます。
1の判決は、税務大学校の税務訴訟資料、2の裁決は、国税不服審判所の公表裁決ですので、両方ともどなたでも簡単に入手可能です。
是非、研究してみてください。


【目 次】
1.未利用の隣接する空閑地について判断された事例
2.建物の取壊し後、未利用状態であった空閑地について判断された事例
3.コメント

1.未利用の隣接する空閑地について判断された事例
平成16年8月10日高知地裁 TAINSコード:Z254-9717(確定)
(1)相続財産の状況等(土地の位置関係は不明)
G土地、H土地、I土地及びJ土地は隣接しており、各筆ごとに区割りはされておらず、形状等が本件相続開始時以降に変更されたことはないところ、本件相続開始時においては空閑地として放置され、未利用の状態であったが、高松国税不服審判所による調査段階では、原告がその全体を駐車場として賃貸していた。
(2)請求人の主張
G土地、H土地、I土地及びJ土地は、不動産業者なら当たり前の投資用等と考える物件である。よって、G土地、H土地、I土地及びJ土地のいずれについても、各筆ごとに評価すべきである。
(3)高知地方裁判所の判断
G土地、H土地、I土地及びJ土地は隣接しており、各筆ごとに区割りはされておらず、形状等が相続開始時以降に変更されたことはなく、本件相続開始時においては空閑地として放置され、未利用の状況であったが、高松国税不服審判所の調査段階では、原告が全体を駐車場として賃貸していた事実が認められる。
そうすると、G土地、H土地、I土地及びJ土地は、本件相続開始時において、一体として使用することが可能な形状であり、かつ、実際にも個別に使用されてはいなかったから、各筆ごとに評価するのではなく、現実の利用形態に即して1画地の宅地として評価すべきである。

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2.建物の取壊し後、未利用状態であった空閑地について判断された事例
平成23年12月6日(公表裁決) TAINSコード:J85-3-14
(1)基礎事実
A土地は、南東側で国道、南西側で市道d号線(南西側市道)にそれぞれ接しており、A土地が南西側市道に接面する距離は13.5mである。
B土地については省略。
本件各土地の位置関係は、おおむね下図のとおりであり、A土地のうち本件国道側の別図網掛け部分44㎡を、以下「本件a土地部分」という。A土地の上には請求人の配偶者であるKが所有する建物(本件建物)が建っていた。

(2)請求人の主張
A土地は、本件建物の敷地として使用貸借していた部分188.62㎡と、平成15年2月25日に、本件国道の拡幅に伴いその一部が国土交通省H地方整備局に買い取られた(本件収用)後に未利用の状態であった空き地部分であるa土地部分との2つの利用単位からなっているので、それぞれ別の評価単位として評価すべきである。
(3)国税不服審判所の判断
A土地及び本件収用により買い取られた土地部分は、本件被相続人が本件配偶者へ贈与した店舗兼居宅の建物の敷地として、本件収用まで全部を一体として利用されており、本件収用に伴い当該建物の店舗部分が取り壊された後も、a土地部分は、その土地上に建物が存在しなくなったこと以外に、本件収用の前後を通じて利用状況に変化はなく、また、本件配偶者の子らが本件建物を使用開始した前後を通じ、本件相続開始日(平成19年11月○日)に至るまで、A土地の利用状況に変化はないことからすると、a土地部分を含むA土地は、本件収用後も引き続き、その上に存する本件建物の敷地として全部を一体として利用されていた宅地であるとみるのが相当である。
また、本件配偶者は、本件被相続人から店舗兼居宅の建物の贈与を受けると同時に、本件被相続人から当該建物の敷地を使用貸借することとなり、当該建物の店舗部分を取り壊した後も、本件建物の敷地を引き続き本件被相続人から使用貸借していたのであり、本件配偶者の子らが本件建物を使用開始した前後を通じ、本件相続開始日に至るまで、本件A土地の権利関係に変化はないのであるから、a土地部分を含むA土地は、本件収用後も引き続き、その上に存する本件建物の敷地として全部を一体
として、本件配偶者が本件被相続人から使用貸借していた宅地であるとみるのが相当である。
以上によれば、a土地部分を含むA土地は、評価通達7-2の定めに基づいて1つの評価単位(1画地)として評価すべきである。

3.コメント
1の判決のG土地、H土地、I土地及びJ土地は、相続開始日は未利用の土地でした。
請求人は、これらの土地を「不動産業者なら当たり前の投資用等と考える物件である。」と主張していますが、被相続人が不動産業者であったか否かは不明ですし、また、投資用として所有していたということの証明がされているかどうかも不明です。
そして、国税不服審判所の審査請求時の調査時の利用状況が、4つの土地を合わせて、「全体を駐車場として賃貸していた事実が認められる。」ことから、「G土地、H土地、I土地及びJ土地は、本件相続開始時において、一体として使用することが可能な形状であり、かつ、実際にも個別に使用されてはいなかったから、各筆ごとに評価するのではなく、現実の利用形態に即して1画地の宅地として評価すべきである。」との判断となっていますが、そもそも、国税不服審判所の審査請求時の調査時の利用状況によって判断するということには疑問を感じます。
2の裁決は、その土地の周囲の状況が、過去の利用状況と変わらないということで、過去の利用状況と同じ利用状況であると判断されています。
このように、過去の利用状況を一つの判断基準とすることについては、一定の合理性があると思います。
また、このほかに想定される判断基準として、隣接地や周囲の土地の利用状況と同じように使用するのではないかという推測の元、隣接地等の利用状況を判断基準とすることも考えられると思いますが、これについては、隣接地等の土地と同じように利用することが困難であるなどの理由(地積の大小、地形がNG、位置関係がNG等)がある場合は適用できないと思います。
私は、実務で、空閑地の事例に遭遇したことはありませんが、おそらく、その土地ごとに適切と判断される「利用状況」を、何らかの合理的な理由をつけて、個別具体的に判断することになると思います。