ここでは、家庭菜園として利用している土地の評価単位が争われた事例をご紹介しています。
評価単位の基本的な知識については、下記「土地の評価-路線価による計算方法」の頁の「3 土地の評価単位の基本」に書いていますので、併せてご覧ください。

土地の評価ー路線価による計算方法




はじめに
自宅の敷地に隣接する土地を家庭菜園として利用している場合、自宅の敷地と合わせて1つの土地として評価単位とすることが多いのですが、家庭菜園ではなく、「畑」と認定された場合は自宅の敷地とは別々に評価します。

自宅の敷地は、「宅地」に該当しますが、「宅地」には、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」も含まれます(不動産登記事務取扱手続準則68条3号)。
この「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地」の解釈について、平成17年5月31日裁決では、次のように述べられています。
「『維持若しくは効用を果たすために必要な土地』とは、建物の風致又は風水防に要する樹木の生育地及び建物に付随する庭園又は通路等のように、それ自体単独では効用を果たせず、建物の敷地に接続し、建物若しくはその敷地に便益を与え、又はその効用に必要な土地をいうものと解される。
また、『維持若しくは効用を果たすために必要な土地』に当たるか否かは、その土地の利用目的及び土地全体の現況に応じて判断することが相当であると解される。」
つまり、宅地に隣接する家庭菜園が、「それ自体単独では効用を果たせないもの」、「建物の敷地に接続しているもの」、「建物若しくはその敷地に便益を与え、又はその効用に必要とされるもの」でしたら、宅地に含まれることとなります。
ただ、家庭菜園ですと、「建物若しくはその敷地に便益を与え、又はその効用に必要とされるもの」という要件に当てはまる事柄があるかどうかは疑問です。
木を植えていると日差しを和らげたり、強風が直接建物に当らない等の効用があるかもしれませんが、家庭菜園で野菜をたくさん植えることで、家が「涼しい」とか、外観が美しい等の効用が認められるかどうかということです。
ケースバイケースということはあると思いますが、認められるケースというのは非常に少ないと思います。この要件よりも、むしろ、「それ自体単独では効用を果たせないもの」という要件の方が重視されるのではないかと思います。
ここでは、家庭菜園として宅地と一体として利用されていると判断された裁決と宅地と一体として利用されていると認められないと判断された裁決をご紹介いたしますので、皆様も考えてみてください。

【目 次】
1.家庭菜園として、隣接する宅地と一体評価することとされた事例
2.家庭菜園とは認められなかった事例
3.コメント

1.家庭菜園として、隣接する宅地と一体評価することとされた事例
平成18年12月26日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-206(棄却)
(1)本件土地の現況(土地の位置関係図が添付されていない上に、詳細も不明なので略図も作成していません。)
(ⅰ)基礎事実
① 中央部分は、現況が宅地で実測面積が932.84㎡及び126.93㎡(合計1,059.77㎡)
② 西側部分は、現況が畑で実測面積が245.97㎡及び333.42㎡(合計579.39㎡)
③ 東側部分の一部は、現況が道路で実測面積が13.02㎡(本件道路部分)
④ 本件道路部分を除く東側部分は、現況が畑で実測面積が252.99㎡
⑤ 南側部分は、現況が石垣部分及び稲荷神社部分でそれらの実測面積が41.95㎡
このほか、西側部分の南西端から北東方向に向かって実測面積が37.49㎡の旧水路敷が所在する。
(ⅱ)認定事実(国税不服審判所の調査等の結果)
本件土地は、本件道路部分を除き、旧水路敷を含めて一体となって被相続人が所有していた建物及び請求人■所有の建物の敷地として利用されており、西側部分には庭木が植えられていて多少の段差があるものの、全体的にはおおむね平坦で、畑は存在していない。
相続税の申告書に添付された遺産分割協議書には、本件土地のうち登記簿上の地目が畑となっている土地について、いずれも「畑(現況:宅地)」と記載されている。相続税の申告書の第11表(相続税がかかる財産の明細書)の本件土地に係る「細目」欄には、「宅地」と記載されている。

(2)関係者の答述
(ⅰ) 請求人■
本件土地の測量図には、本件土地の西側部分及び東側部分の現況が畑と記載されているが、過去、西側部分が畑として耕作されていた記憶はなく、東側部分には、農機具等をしまう大きな納屋と物置が建っていた。また、納屋と物置が建っていた以外の東側部分の空いた土地の一部では、親(被相続人及び請求人■■)が自分たちの食べるための野菜を作っていたことがあるが、出荷するほどのものではなく、強いて言えば家庭菜園のようなものであった。本件相続開始日現在は、全体(本件道路部分を除く本件土地及び旧水路敷)が建物の敷地として使用されていた。
本件測量図は、登記簿上の地番及び地目に沿って作成されたものと思う。
(ⅱ) 請求人らの代理人である■■■■■■■の事務所に所属する■■■■
私は、7、8年前から請求人■宅に伺っているが、本件土地の西側部分は当時から現在と同じ状況であり、また、東側部分には納屋があり、納屋が建っていない部分は、畑状であったと言えるかもしれないが、家庭菜園のようなものであった。
(ⅲ) 測量図を作成した■■■■■■■■■■■
本件土地の東側部分には、納屋が建っていたが、それ以外の部分は実際に野菜が栽培されていたし、栽培されていない部分にも畝(うね)があったので、現況を畑と判断した。しかし、家庭菜園と言われればそうかもしれない。
また、西側部分は、実際には耕作されていなかったが、確か梅の木が植えられていたので、現況を畑と判断した。

(3)国税不服審判所の判断
原処分庁は、本件土地の相続税評価額の算定に当たり、評価単位については、本件土地の中央部分が宅地並びに西側部分及び東側部分が畑であるとして、それぞれの相続税評価額を算定し、また、西側部分及び東側部分の畑については、評価上斟酌する宅地造成費を控除して、相続税評価額を算定している。
しかしながら、上記の事実及び答述によれば、本件相続開始日現在における本件土地の現況は、全体(本件道路部分を除く本件土地及び本件旧水路敷)が本件土地上に存する建物の敷地、庭及び家庭菜園として、一体として利用されていた宅地と認めるのが相当であるから、本件土地の評価単位は、1画地の宅地とするべきである。

(4)コメント
この事例は、請求人が不動産鑑定士による鑑定評価額で申告した事例です。
請求人は、本件土地を1画地の宅地として申告していたので、評価単位については請求人の申告が認められましたが、鑑定評価額が相続開始日における適正な時価を示しているものとは認められないと判断されたため、審査請求は棄却となりました。

スポンサーリンク


2.家庭菜園とは認められなかった事例
平成19年6月4日裁決(非公開裁決) TAINSコード:F0-3-316(棄却)
(1)基礎事実及び認定事実
A土地1,610.52㎡、B土地567㎡、C土地356.42㎡は、都市計画法上の用途地域の準工業地域に所在する。
本件各土地(A土地及びB土地とC土地)を含む周辺一帯は、中小規模の一般住宅、農家住宅、事務所の他に畑地等が見られる住宅地域である。
① 本件A土地は、南東側で幅員約2.4mの公衆用道路(地積115㎡。本件市道)を包むように接している逆凹型の土地で、本件市道に路地状部分で約16m、行き止まり部分で約2.4m接している。本件市道に路線価は付されていない。
② B土地は、南東側で幅員約5mの県道に約17.5m、北東側で本件市道に約32.5m接面するほぼく形の土地である。
③ C土地は、南側で幅員約5mの県道に約2.5m、南西側で本件市道に約32.5m接面する不整形地である。
本件B土地、本件C土地の南東側は県道と接している。
このほかの位置関係は不明だが、下記の審判所の判断で述べられているように、B土地とC土地は本件市道を挟んで区分されていることから、筆者の想像によれば、A土地の逆凹型に包まれた本件市道の両側にB土地とC土地があり、A土地とB土地、A土地とC土地が隣接しているため、請求人は、A土地及びB土地とC土地を一体評価するように主張しているのではないかと思われる。

(2)請求人の主張(原処分庁の主張は、審判所に全て採用され、審判所の判断で述べられているので省略。)
原処分では、本件各土地を本件A土地、本件B土地及び本件C土地に区分してそれぞれ評価しているが、本件B土地及び本件旧C土地(本件相続開始日後の分筆前のC土地とD土地)については、平成11年9月30日までは耕作が行われ、そこで栽培した農作物を出荷していたものの、その後は、農業の用に供された土地ではなく、単なる家庭菜園として被相続人の自宅敷地であった本件A土地と一体で利用されていたものであるから、本件各土地は、一団の土地として評価されるべきである。
また、評価基本通達7のただし書では、一体として利用されている一団の土地が二以上の地目からなる場合には、その主たる地目からなるものとして一団で評価することとされており、本件各土地は宅地として一体評価されるべきである。
                 
(3)審判所の判断
地目はすべて現況により判断することとなるので、本件各土地の相続開始日における利用状況をみてみると、A土地については、被相続人の自宅敷地であったことについては請求人及び原処分庁の双方に争いがないところ、B土地及びC土地については、①登記上の地目のみならず固定資産税評価における現況地目の判定においても畑とされていること、②本件相続開始日以降には、それぞれの土地について相続人■により農地法上の転用届出書が提出されて登記地目の変更が行われていることからすると、本件相続開始日において農地法上の農地に該当することに加え、③本件相続開始日において現に農作物の栽培が行われていたことから、これらを総合的に判断すると、これらの土地は農地と認定するのが相当であり、これらを、宅地であるA土地と一体として利用されている一団の土地と認めることはできない。
したがって、A土地とB土地及びC土地は、その地目及び利用区分が異なるため、評価基本通達7により別に評価することとなる。

3.コメント
家庭菜園が争点となった事例は、評価単位を地目別に分ける事例です。
相続税の財産評価基本通達では、この裁決の事例の当時、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」について、広大地通達の適用があり、約40%の評価減をすることができ、1画地の宅地として広大地通達の適用があった方が納税者にとって有利でした。
現在、広大地通達の適用はなくなりましたが、地積規模の大きな宅地の評価の適用がありますので、隣接する宅地をまとめて1画地の宅地とすることができれば、評価額がぐんと下がります。
1の裁決も2の裁決も納税者が不動産鑑定士の鑑定評価を行っている事例ですが、鑑定評価においても、広い土地は鑑定額が低くなります。

1の裁決では、自宅の敷地の西側部分と東側部分の地目が争点となった事例で、2の裁決では、自宅の敷地であるA土地に隣接するB土地とC土地の地目が争点となった事例です。
いずれも登記簿上の地目は「畑」でした。
1の裁決の争点となった自宅の西側部分の面積は579.39㎡、東側部分の面積は252.99㎡で、2の裁決の争点となったB土地は567㎡、C土地は356.42㎡でした。
面積だけを比較すると、2の裁決の方が100㎡強広くなっていますが、1の裁決の西側部分と東側部分も充分な広さがあると思われます。
両方とも相続開始日の頃には、農作物の栽培が行われていたようですので、2の裁決のB土地とC土地が、「相続開始日において農地法上の農地に該当する」ということが判断の一つのポイントとなったのではないかと思われます。
また、農作物の栽培の状況も、1の裁決では、「自分たちの食べるための野菜を作っていたことがあるが、出荷するほどのものではなく」と述べられているように、細々と農作物を栽培していてる程度であったのではないかと思われますが、2の裁決では、元々は出荷する程度の栽培が行われていたが、業者が倒産したため、その後出荷しなくなったけれど、引き続き農作物の栽培を行い、家庭菜園として利用している(相続人■の申述)ということなので、農作物の栽培自体は盛んに行われていたのではないかと思われます。
その他の判断のポイントは判然としませんが、2の裁決で、「家庭菜園程度である」と主張するのであれば、栽培する農作物の種類や量などを一覧表にまとめ、「この程度の量なので、自分や親戚に配る程度に過ぎないから、家庭菜園です」ということを主張してみても良かったのではないかと思います。